普及期に入りつつある文化財IPM

この数年で、「総合的に有害生物を管理する」という文化財IPMの考え方は広く知られるようになりました。

燻蒸処理が主流だった文化財保存から、薬剤だけに頼らず複数の手段を組み合わせてムシやカビ等の生物被害を防除する時代へ、確実に変化していると思われます。

燻蒸処理をいきなりゼロにするのは難しいかもしれませんが、被害が減れば燻蒸の機会もガスの量も減らしていけます。

それが結果的に保存コストの削減にもつながります。

ただ「本当に守れるのか?」「導入の仕方がわからない」という声があるのも事実です。

このコンテンツでは、文化財IPMの全体像や導入の流れなどを解説していきたいと思います。

文化財IPMの全体像とは

文化財IPMには5つのステップがあり、以下の数字の順で進められます。この順番はとても重要で、正しくステップを踏まないと本来の目標が達成できないこともあります。

ムシ・カビを誘引するホコリ等の回避。効果的な掃除とクリーニングが基本です。

ムシ等の侵入ルートを遮断します。

[1][2]を実施したうえで、ムシ・カビがいるかどうかを調査。早期発見が重要です。

[3]の結果を踏まえ、もし問題があれば収蔵品に安全な方法で対処します。施設の課題の見直しも。

安全が確認された収蔵空間に作品を戻します。

文化財IPM導入の流れ

まずは館の現状把握です。回避・遮断ができているかの現場確認、被害の状況、現在実施している保存対策をヒアリングし、目標と計画を設定した後、仕様書を作成します。

スムーズに文化財IPMを進めるためには館の組織体制も重要です。
文化財IPM担当者を任命するとともに、トップの理解と協力を得ることが館全体で文化財IPMに取り組めるかどうかの分かれ目となります。

浮遊菌調査や空気環境調査等の環境調査と並行してIPMメンテナンスを実施します。データを作成し、それに沿って対処・復帰(環境整備)を行います。

日常的な管理・防除

清掃や衛生管理等による回避・遮断の実施。合わせて通年でトラップ調査や浮遊菌調査のデータを作成し、状況に応じて対処を行います。

日常的な管理・防除の写真
結果の報告体制

文化財IPM導入後の結果報告は基本的に1カ月ごとに行います。メール配信や掲示、回覧など全員に報告できる準備が必要です。可能であれば「報告会」を開き、活動に貢献のあった方を表彰するなどして、関心を高めることができればベストです。

報告会の写真